循環器内科

循環器病とはどのような疾患か

病気とは、体の構造や機能に異常が生じることを意味します。循環器病は、心臓や血管の構造や機能に異常が生じることで、全身の臓器に血液を供給し、回収するポンプや管の不具合によって各臓器への血流が過不足し、機能障害を引き起こす疾患です。

血管が詰まったり、広がりすぎたり、破けたりすることで臓器に障害をもたらす主な疾患には、脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血など)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、動脈疾患(大動脈解離、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症など)、静脈疾患(深部静脈血栓症、静脈瘤など)、肺血管疾患(肺血栓塞栓症、肺高血圧症など)があります。また、心臓のポンプ機能が低下する状態を心不全といい、虚血性心疾患や弁膜症、先天性心疾患、不整脈、心筋症、感染症(心筋炎、心膜炎など)がその原因となります。

高血圧や糖尿病などの生活習慣病や慢性疾患を持つ状態から、ある日突然心筋梗塞などの循環器病を発症し、一命をとりとめた後も心機能低下のために心不全を発症し、突然の息苦しさで救急搬送を要するような再発や増悪を繰り返しながら身体機能が低下していきます。がんの経過と比較すると、循環器病は急な発症で緊急性を要することが多く、短期間で増悪を繰り返すことが特徴です。対処が遅れれば遅れるほど、元の状態に戻ることは難しくなります。

一方で、循環器病はある程度予測や予防が可能な疾患でもあります。高血圧や糖尿病などの慢性疾患について、循環器病の発症を抑制するために正しいリスク管理を行い、発症や増悪を見逃さずに適切なタイミングで治療を行うことで、病態の悪化を防ぐことができます。健康診断や風邪の受診のように、気軽に受診できる医療環境が整っていることが望ましいと考えています。

循環器病の症状が無くても常に疑い、見逃さない

典型的な循環器病の症状には、胸痛、背部痛、浮腫、息切れ、息苦しさ、動悸、麻痺などがあります。これらの症状を自覚した場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。しかし、これらの症状がないからといって循環器病を心配しなくてよいという考えは危険です。循環器病は全身の臓器に影響を及ぼし、様々な症状を引き起こす可能性があるため、見逃しは命に関わることがあります。歯痛のみを訴える心筋梗塞や、無症状のまま進行する循環器病も少なくありません。

私たちは、患者さんが自覚していない段階で循環器病を見つけ出し、早期に対処することを重視しています。そのため、循環器科としての専門的な診療だけでなく、かかりつけ医として幅広い相談に応じる中で循環器病を発見すること、また、必要に応じて専門的な診療で循環器病がないことや緊急性がないことを確認し、総合的な診療を進めることが重要だと考えています。

循環器病の治療

循環器病は、ポンプと管の不具合による比較的単純な疾患であり、その治療原理もシンプルです。

臓器の血流が不足すれば輸液で補い、過剰なら除水や血管拡張を施します。血管が狭くなればバルーンで広げ、ステントで再狭窄を防ぎます。血栓が詰まれば薬で溶解したり、回収を試みます。それでも血流が確保できない場合や破裂の危険がある場合は、人工血管で血管そのものを置き換えます。心臓が正常に電気信号を送れない場合はペースメーカーで補助し、不整脈が生じた際は電気刺激や焼灼で対応します。さらに、心臓のポンプ機能が低下した場合には補助人工心臓を使用し、最終的には心臓移植も行われます。

循環器病の治療技術は世界中で進歩しており、日本でも医療の均てん化が進んでいます。そのため、どこでも高度な治療が受けられる体制が整っています。しかし、重要なのは病院前後の診療です。かかりつけ医レベルで循環器病のリスク管理を徹底し、早期に発見して最適なタイミングで適切な施設で治療を受けられるよう導くことが求められます。そして、治療後は再発や増悪を防ぐための綿密な管理が必要です。これが当院の役割です。

心臓の手術は一生に一度あるかないかのものであり、利便性よりも専門医が手術の腕を磨くことに専念すべきです。しかし、手術の前後に必要な全身管理は利便性が重要であり、総合診療的なアプローチが求められます。例えば、心不全は心臓のポンプ機能が全身臓器の需要に応えられない状態であり、全身の状態を管理する必要があります。感染やストレスなどで血圧が上昇すると、数時間で状態が悪化することもあります。

病院での検査や診察を長時間待つことは大きな負担です。心臓以外の病気が疑われる場合は別の科での診察が必要となり、さらに負担が増えます。また、外来の枠組みが決まっていると、状態が悪くなり始めても次の外来は何週間も先になり、その間に悪化すれば入院が必要となります。こうした増悪と入退院の繰り返しは病態を悪化させ、医療経済的にも大きな負担です。早期にかかりつけ医を受診し、血行動態の管理を受けることで急な息苦しさでの搬送を防ぐことができます。

高度な専門診療と総合診療が気軽に受けられる環境が現在の日本の医療には求められています。循環器病を早期に発見し、全身管理を行い、必要な治療を受けた後は再発を防ぐための綿密な管理を続けることが私たちの目指す診療です。

循環器病対策の主体は病院から診療所へ

循環器病の診断がなされ病院に辿り着けば、日本全国どこでも高度な医療を受けられる時代になりつつあります。今後も、より有効な治療を目指す研究開発が進められていくべきですが、次のステップとして、診療所レベルで循環器病を迅速に同定し、病院診療につなげるとともに、発症を予防する取り組みを強化することが重要です。

病院で循環器診療を行っていると、もう少し誰かが早く気づいてくれていればと悔しい思いをすることが少なくありません。振り返ってみると、ずいぶん前から循環器病を示唆する症状が見られていたのに、ご本人が「年のせい」と放置していたり、肺がん検診のレントゲンで心拡大が進行していたり、心電図を取っておけばもっと早く対処できたのにということが多々あります。「後医は名医」という格言があるように、前医を非難するものではありませんが、入院死亡率の8〜9%を助けるためにも、発症そのものを予防するためにも、病院に搬送される前の総合診療や健康診断の段階で循環器専門医が関わることが大切だと思います。

ただ、「循環器専門」と看板が掲げられていると、ちょっとした風邪や腹痛で受診するのに気が引けるかもしれません。しかし、実際には風邪薬だけをもらうつもりで受診したら重篤な不整脈で緊急対応が必要だったり、腹痛で受診したら大動脈瘤だったり、皮膚科の薬をもらいに来たら心タンポナーデだったという実例が当院にはたくさんあります。

こうした患者さんを確実に同定し、助け出すためには、専門医が排他的な専門診療に甘んじることなく、広く総合診療に取り組む必要があります。

私たちの考えるかかりつけ医の在り方

日本の医療計画はこれまで病院主体で進められてきましたが、その先に診療所の診療の質の向上があり、その文脈で現在かかりつけ医の在り方が模索されています。かかりつけ医の大事な役割の一つは、患者さんに対して適切な答えを出すこと、そしてその答えを出すための道筋をつけることです。

病気とは体の「構造」や「機能」の異常です。「構造」はX線、CT、超音波などで評価し、「機能」は採血や心電図、呼吸機能検査などで評価できます。一般的に、患者さんは息切れなどの「機能」の異常を訴えて受診し、身体所見でも足のむくみなどの「機能」の異常は同定されやすいため、検査も「機能」の異常の評価が広く行われます。一方で「構造」の評価は疎かになりがちです。これは、超音波検査には習熟が必要で、CTやは大きな設備が必要となるためです。大きな病院ではこうした設備があっても、利用者が多いために必要な時に検査ができないことがあります。その結果、設備のある病院でも「構造」の評価の欠けた診療が行われていることが少なくありません。

例えば、腹痛を評価する際に、採血・超音波・CTを駆使すれば、その場で正確な診断にまで至らなくても、少なくとも腸・肝胆膵・泌尿器・卵巣子宮の中のどの臓器に異常があり、緊急性があるのかないのかまでは速やかに判断し、必要に応じて然るべき機関に道案内をすることができます。「構造」が絞り込めないと、とりあえず痛みが強いからと大病院の消化器科に送られ、1日がかりで受診し、検査に数日要した挙句に「ウチではない」と帰され、次は泌尿器科に受診して、とたらい回しになっている間に病状が進行することになります。プライマリケアで速やかに「構造」と「機能」の評価を行い、答えを出せること、答えを出す道筋をつけられることが重要だと考えています。

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